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今回のリサイタルのためにサンサーンスの赤い灰の対訳を作成しました。

こちらからPDFをダウンロードできます。




1914年に78歳のサンサーンスにより作曲されたこの歌曲集。
年をとった男が愛の思い出を語っていると解釈できるかもしれない。
終わりつつある自分の人生に対する厳しい視点が胸を打つ。
自分を傷つけたこともある愛だが、それでも自分には愛が必要なのだという強い独白。


少し録音も紹介。
7曲目の「五月」です。





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リサイタルのために作成したベートーヴェンの「遥かなる恋人に寄せて」の対訳です。(©井口達)



An die ferne Geliebte

遥かなる恋人に寄せて


Ludwig van Beethoven

Alois Isidor Jeitteles




1. Auf dem Hügel sitz ich spähend

 

Auf dem Hügel sitz ich spähend

In das blaue Nebelland,

Nach den fernen Triften sehend,

Wo ich dich, Geliebte, fand.

 

Weit bin ich von dir geschieden,

Trennend liegen Berg und Tal

Zwischen uns und unserm Frieden,

Unserm Glück und unsrer Qual.

 

Ach, den Blick kannst du nicht sehen,

Der zu dir so glühend eilt,

Und die Seufzer, sie verwehen

In dem Raume, der uns teilt.

 

Will denn nichts mehr zu dir dringen,

Nichts der Liebe Bote sein?

Singen will ich, Lieder singen,

Die dir klagen meine Pein!

 

Denn vor Liedesklang entweichet

Jeder Raum und jede Zeit,

Und ein liebend Herz erreichet

Was ein liebend Herz geweiht!



1. 丘の上に座り目をこらす

 

丘の上に座り目をこらす

霧ぶかい青い世界へと

はるかな草原を見るために

僕が君と、愛する君と出会った草原を

 

僕は君から遠く引き離され

山と谷が引き裂くように横たわる

僕たちの間に、僕たちの安らぎの間に

僕たちの幸福の間、そして苦しみの間に

 

ああ、この眼差しが君には見えないんだ

君のもとへと焦がれ急ぐ眼差しが

そしてこのため息は吐かれて消える 

僕らを分けるこの空間に

 

もう何も君へとたどり着けないとでも?

愛を届ける手段は何もないとでも?

僕は歌おう。歌をうたおう

僕の痛みを君に伝えるこの歌を

 

歌の響きの前では解き放たれる

どんな空間も、どんな時間も。

そして愛する心のもとに届くんだ

愛する心に祝福された聖なるものは





2. Wo die Berge so blau

 

Wo die Berge so blau

Aus dem nebligen Grau

Schauen herein,

Wo die Sonne verglüht,

Wo die Wolke umzieht,

Möchte ich sein!

 

Dort im ruhigen Tal

Schweigen Schmerzen und Qual

Wo im Gestein

Still die Primel dort sinnt,

Weht so leise der Wind,

Möchte ich sein!

 

Hin zum sinnigen Wald

Drängt mich Liebesgewalt,

Innere Pein

Ach, mich zög's nicht von hier,

Könnt ich, Traute, bei dir

Ewiglich sein!


2. 青々とした山なみが

 

青々とした山なみが

霧の灰色を抜けて

こちらを見つめるところ

太陽が最後の光を放つところ

雲たちに囲まれたところ

そこに僕は行きたい!

 

そこでは穏やかな谷の中で

痛みも苦しみも黙ってしまう

そして岩の間で

プリムラの花が粛々と想いに沈み

風はとても静かなんだ

そこに僕は行きたい!

 

物思いの森へと僕を追い立てる

愛の暴力的な力が

内なる痛みが

僕はそんなものに動かされたりしないのに

もし僕が、心ささげる君のそばに

永遠にいることが出来るなら






3. Leichte Segler in den Höhen

 

Leichte Segler in den Höhen,

Und du, Bächlein klein und schmal,

Könnt mein Liebchen ihr erspähen,

Grüßt sie mir viel tausendmal.

 

Seht ihr, Wolken, sie dann gehen

Sinnend in dem stillen Tal,

Laßt mein Bild vor ihr entstehen

In dem luft'gen Himmelssaal.

 

Wird sie an den Büschen stehen

Die nun herbstlich falb und kahl.

Klagt ihr, wie mir ist geschehen,

Klagt ihr, Vöglein, meine Qual.

 

Stille Weste, bringt im Wehen

Hin zu meiner Herzenswahl

Meine Seufzer, die vergehen

Wie der Sonne letzter Strahl.

 

Flüstr' ihr zu mein Liebesflehen,

Laß sie, Bächlein klein und schmal,

Treu in deinen Wogen sehen

Meine Tränen ohne Zahl!


3. 高い空を軽々と飛ぶアマツバメたち

 

高い空を軽々と飛ぶアマツバメたち

そして小さく細い小川よ

僕のあの子の様子を確かめられたら

僕からよろしくと伝えて、何千回と!

 

雲たちよ、彼女が見えたなら

思い歩く彼女が静かな谷の中に見えたら

彼女のために僕の姿になって

風そよぐ空に浮かんでほしい

 

彼女が茂みの傍で立ち止まったら

秋の、色あせ葉の落ちた茂みの傍で

伝えて、僕がどうなってしまったか

伝えて、鳥たちよ、僕の苦しみを

 

静かな西風よ 届けてくれ

僕の心が選んだ人のもとへ

僕のため息を

太陽の最後の光のように消えるそれを

 

彼女にささやいて、僕の愛の訴えを

彼女に見せて、小さく細い小川よ、

お前の波の中に偽りなく現れる

僕の数えきれない涙を




4. Diese Wolken in den Höhen

 

Diese Wolken in den Höhen,

Dieser Vöglein muntrer Zug,

Werden dich, o Huldin, sehen.

Nehmt mich mit im leichten Flug!

 

Diese Weste werden spielen

Scherzend dir um Wang' und Brust,

In den seidnen Locken wühlen.

Teilt ich mit euch diese Lust!

 

Hin zu dir von jenen Hügeln

Emsig dieses Bächlein eilt.

Wird ihr Bild sich in dir spiegeln,

Fließ zurück dann unverweilt!


4. この高々と浮かぶ雲は

 

この高々と浮かぶ雲は

この陽気に飛んで行く小鳥たちは

素敵な君に会うことが出来るんだ

連れて行って、その身軽な旅に!

 

この西風はちょっかいをかけるだろう

からかい交じりに君の頬や胸に

そして絹の巻き髪をかき乱すんだ

その悦びを僕も分け合えたなら!

 

君のもとへとあの丘から

この小川がわき目もふらず急ぎ流れる

彼女の姿を水面に写し取ったら

戻ってくるんだ、止まらずに!




5. Es kehret der Maien, es blühet die Au

 

Es kehret der Maien, es blühet die Au,

Die Lüfte, sie wehen so milde, so lau,

Geschwätzig die Bäche nun rinnen.

 

Die Schwalbe, die kehret zum wirtlichen Dach,

Sie baut sich so emsig ihr bräutlich Gemach,

Die Liebe soll wohnen da drinnen.

 

Sie bringt sich geschäftig von kreuz und von quer

Manch weicheres Stück zu dem Brautbett hieher,

Manch wärmendes Stück für die Kleinen

 

Nun wohnen die Gatten beisammen so treu,

Was Winter geschieden, verband nun der Mai,

Was liebet, das weiß er zu einen.

 

Es kehret der Maien, es blühet die Au.

Die Lüfte, sie wehen so milde, so lau.

Nur ich kann nicht ziehen von hinnen.

 

Wenn alles, was liebet, der Frühling vereint,

Nur unserer Liebe kein Frühling erscheint,

Und Tränen sind all ihr Gewinnen.


5. 五月がまた来て、草原は花盛り

 

五月がまた来て、草原は花盛り

風は柔らかく、あたたかく吹き

おしゃべりしながら小川は流れる

 

ツバメは快適な屋根の下に戻り

新婚のための住まいを熱心に整える

愛情が住人となるその家を

 

ツバメは忙しくそこら中から集める

柔らかい素材を新婚のベッドに

暖かい素材は子どもたちのために

 

そして夫婦は心を開き共に暮らす

冬が分けたものを、五月が今つないだ

愛し合うものたちを、五月は一つにすることが出来る

 

五月がまた来て、草原は花盛り

風は柔らかく、あたたかく吹く

でも僕だけがここから動けない

 

全ての愛し合うものたちを春が一つにしても

僕たちの愛には春が訪れることがない

涙だけが僕らの愛が手にするもの



6. Nimm sie hin denn, diese Lieder

 

Nimm sie hin denn, diese Lieder,

Die ich dir, Geliebte, sang,

Singe sie dann abends wieder

Zu der Laute süßem Klang.

 

Wenn das Dämmrungsrot dann zieht

Nach dem stillen blauen See,

Und sein letzter Strahl verglühet

Hinter jener Bergeshöh;

 

Und du singst, was ich gesungen,

Was mir aus der vollen Brust

Ohne Kunstgepräng erklungen,

Nur der Sehnsucht sich bewußt:

 

Dann vor diesen Liedern weichet

Was geschieden uns so weit,

Und ein liebend Herz erreichet

Was ein liebend Herz geweiht.


6. さあ受け取って、この歌を

 

さあ受け取って、この歌を

僕が君に、愛する人に、歌った歌を

歌ってほしいんだ、日が暮れるたびこの歌を

リュートの甘い響きに乗せて。

 

夕暮れの赤い色が

穏やかな青い湖を照らすとき

そして最後の光が

遠い山の端の彼方に消えて行くとき

 

その時君が歌う、僕が歌った歌を

僕の胸に満ちたものが

技巧や芸術を抜きにただ音となり

ただ焦がれる想いだけを頼りに歌った歌を

 

そうすれば、この歌の前に消え去る

僕たちをこんなに遠く隔てていたものが

そして愛する心のもとに届くんだ

愛する心に祝福された聖なるものは


この春久しぶりに日本でリサイタルを開きます。
4月29日伊那公演、5月9日東京公演です。
詩人の愛、をテーマに4つの傑作連作歌曲を取り上げます。
ご来場お待ちしております!

チケットはこちらから。

伊那公演
プレイガイド
平安堂伊那店 0265-96-7755
ニシザワBOOKS&CAFEいなっせ店 0265-77-2255
酒文化 いたや 0265-72-2331
和えの里 0265-76-9608
チケットサイト・カンフェティ
http://confetti-web.com/iguchi-1

東京公演
チケットサイト・カンフェティのみ
http://confetti-web.com/iguchi-2

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みなさんご無沙汰しております。

気が付けば2023年です。
2022年夏以降のの演奏活動のハイライトを簡単に。

一番印象的だったのは、昨年10月にアルベルスローダというライプツィヒの近くの村でオルガンと共に歌った小さなリサイタルです。

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こちらの教会で、マルテ・クレヴェノウというオルガニストとともに約一時間半の演奏会を開催しました。
前半は人の世の喜びと苦悩を世俗音楽を主に歌い、そして後半は宗教曲を核にして苦悩からの昇華を表現したプログラムにしました。
何曲かの日本歌曲とドイツ語の宗教曲、オペラアリア、歌曲を組み合わせ、変化に富みながらも全体として起承転結がある、我ながらいいプログラムになったなあと思っています。
特に面白かったのが、ワーグナーのオペラ、「タンホイザー」のアリア「夕星の歌」がオルガンとうまくはまってお客さんの評判がよかったことです。
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また、演奏会翌日の朝にはゲーテの町、バート・ラウシュテットの教会の礼拝で一曲歌わせていただきました。


そのほかにも、12月には以前マネージメントと経営で関わったドレスデン室内合唱団に歌手として参加するという嬉しい機会がありました。
クリスマスコンサートでしたが、全曲アカペラで、かなり難易度の高い現代曲も多数含まれたプログラム。練習日程もタイトだったのでなかなか大変でした。しかもコロナで次々脱落していく歌手たち…。
ドレスデン室内合唱団はシュッツ全曲録音で世界的に有名な合唱団です。プログラムの中にハインリヒ・シュッツの曲が一曲含まれていて、この合唱団の一員としてシュッツを歌うことが出来て興奮しました。

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クールな雰囲気の演奏会。

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また、今年1月にはミュンヘンのMonacensia im Hildebrandhausというモダンな美術館でオール・モーツァルト・プログラムの演奏会で歌わせていただきました。素晴らしいメゾのカリン・バウアーさんという方と二人でのコンサートでした。

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ミュンヘンの平和の天使像の近くの美術館、というか文学館なのですが、こんな機会でもなければ存在を知ることがなかったと思います。
地元の人に愛される文化スポットという感じで、お客さんがとても温かい満員の演奏会でした。






久々の更新。

4月と5月にかけて、4つのコンサートに出演しました。

4月に出演したのはバイエルン地方にあるゼーオン修道院のモーツァルト記念演奏会シリーズの一環で企画された演奏会。
モーツァルトと旅、というテーマでオペラアリアを中心によく知られた曲から知られざる名曲まで、トークを交えたコンサートでした。

今は総合文化施設としての色合いが強いこの修道院、湖の中にある半島に建っています。モーツァルトも旅の途上この修道院に滞在し、数曲の宗教曲を残しています。

私はよく知られたオペラアリアに加えて、モーツァルトが11歳の時に作曲した宗教曲の2重唱やフランス語の歌曲など、いままで演奏したことがなかった曲を勉強し披露することが出来て幸せでした。
中でも印象深かったのがアンコールで歌ったモーツァルト版の猫の二重唱です。ミャウミャウ歌うのが楽しかった。

こちらがその重唱。大歌手ブリン・ターフェルの録音。日本でも視聴可能だといいのですが…。


素晴らしいソプラノ歌手のソーニャ・ロイトヴィラー、ピアニストのミカエル・ゲーリウスの共演させてもらえたことにも感謝です。

共演者たち
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演奏会場
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また、5月にはヘアブレヒティンゲン(Herbrechtingen)という町の音楽祭「歌の春」に出演し、計3つの演奏会で歌わせていただきました。
この町がまったくもって風光明媚な町でして…。奇岩の楽しめる散歩コースが演奏会場から徒歩でいける場所にあり、滞在期間中何度も歩きました。
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この音楽祭は若いソプラノ歌手、テレーザ・ロメスが主催しています。彼女の才気が存分に発揮され、プログラムにお客様を楽しませる工夫が溢れているのが素晴らしかったです。

テレーザとの写真
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今年の音楽祭のテーマは「花」。私はピアニストやギタリストと共にシューベルト、ウェーバー、シュポーアなどの歌曲を中心に演奏しました。また、作曲家クラウス・キューンル自身による伴奏で、彼の作曲した歌曲集を歌ったことも得難い体験になりました。

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何より興味深かったのが、音楽祭2日目のお散歩コンサート。
演奏会の前半は野外の会場にて出演者が出身地域の民謡をギターの伴奏やアカペラで演奏。そして休憩時に皆で200メートルほど離れたホールに移動して少し違った毛色の、キューンルの現代歌曲を聴かせるというプログラム。また前半には植物学者が曲の合間に歌われる花々に関するトリビアを披露するというおまけつき。観客の喜びを肌で感じるコンサートになりました。

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ギター伴奏で「からたちの花」や「ひらいたひらいた」などの日本の曲を歌いました。
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前半のラストを飾ったメンデルスゾーンのアカペラ4重唱
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